2018年12月23日日曜日

事業立ち上げと撤退の狭間


つい先日、メルカリの英国事業撤退が話題になりました。欧州の中古市場の大きさに目を付けたのは良かったのですが、3年で3000ポンドという売上にしても、英国にいてメルカリの広告を見る機会が皆無だったことから見ても、広報に出てこない諸々の事情があったのだと思います。それにしても3年できっちり撤退判断をできるのは、ある意味立派。

このメルカリの件を見てちょっと思い出したのですが、以前ある経営者がこんなことを言ってました。
「新たなサービスをローンチし、それが当初の仮説に反して全然収益化しない事が判明すると、9割の会社が売り方や価格設定の問題と捉えて試行錯誤するが、恐らく正しくない。ニーズが無い、若しくは収益化が困難なレベルで乏しいのが正解なのだが、早い段階でその本質に踏み込めない」

これは非常に頷く話で、大体は企画段階でExitプランを立てているのですが、製品担当者あるいは経営者の思いで、ウヤムヤになったり、決断が後ズレになるというのはこれまで何度も目にしてきました。それだけ、撤退戦というのは色々な思惑や責任問題が入りこんで困難を極める問題です。本来的には即撤退か、「半年間」とか期限を設けてニーズを見極めて撤退が正しいのだと思います。価格設定や売り方の問題ならニーズ調査を詳細にすれば必ず浮き彫りになるはずですから。でも上層部がトップダウンで英断しない限り、実態としてできているケースを見たことはほとんどありません。

特に中途半端に顧客が付いてしまっていると判断が更に後ズレになりがちです。ただ前職の経験では、既に顧客が付いていたあるサービスの提供を止めた時は、営業が「売上が下がる」と反対の大合唱をしていたよりは影響が少なく(顧客へは代替サービスへの移管を提案したので、反対はほぼ皆無)、却って利益率は上がったという身も蓋も無い現実を見たりもしましたが。

またこの辺りの撤退が困難になっている理由として、上記のような思いではなく、資本関係が絡んでいるケースもあります。私も知っている英国のある中小企業は資本構成が創業時の10人弱の株主にほぼ均等に配分されています。その中の何人かは現在でも事業責任者に就いていますが、明らかに赤字事業で黒字の見込みも立っていないのに、株主であるが故に、なかなか赤字事業のクローズに同意してくれない株主もいるそうです。そのため黒字事業が長年赤字を補てんする関係がダラダラと続いているとか。それでも株主であるが故になかなか次の投資判断ができないというところは資本政策の影響の大きさをつくづく考えさせられます。資本政策の重要性は磯崎哲也氏も繰り返し著作で言及されています。

名著『失敗の本質』でも撤退戦の難しさが詳細に研究されていますが、昔も今も、戦争でもビジネスでも変わらないのは、撤退する時のステークホルダーの利害関係は、事業を開始する時よりずっと複雑になっているということ。事業開始時と撤退を議論する時はステークホルダーが既に退職していたり構成も変わっています。そうすると事業開始時の背景を再度説明するなど複雑なコミュニケーションも必要になります。嫌な話ですが、事業を開始する時点で撤退のシナリオはしっかり考えておく必要があります。勿論、その撤退プランが実現しないのが一番良いのですが。

皆様、良い新年をお迎えください。

Lille, France

2018年12月1日土曜日

パートナーを探す(2)代理店開拓

海外の未知のマーケットで自社製品(特にB2B商材)がターゲットとするマーケットにリーチするには、代理店の検討は避けて通れません。元々代理店がその国に存在するなら話は格段に楽ですが、ゼロからの開拓だとある程度のリードタイムは覚悟する必要が出てきます。代理店を使うメリットとしては
  • 顧客網を既に持っている
  • エンドユーザとの間の言語、通貨、契約面の壁を吸収してくれる
  • 自分たちの代わりに製品を宣伝マーケティングして認知度を広めてくれる

などなど色々あるかと思いますが、後発でその国に参入するとなると、他の競合製品を検討したことが過去にあるケースが多いです。そのため競合をおさえて取り扱ってくれないと意味が無いので、「何がユニークなポイントか」を突き詰めて、且つシンプルな言葉で表現できるようにしておく必要があります。私の場合はそのような練り上げた資料を作成して、コンタクトしました。製品として特許を持っているとか、圧倒的な差別化要素を持っていると話の進みは格段に良くなります。差別化要素は既に海外進出前に持っていると思いますので、それをシンプルに表現しましょう(逆に差別化要素が弱い場合はそもそも海外進出すべきかどうかという議論になります)。

コンタクトリストは割と地味に検索などでリストアップして、代表電話からというアプローチを当初取っていました。これはキーパーソンに到達するまで最低2-3か月のリードタイムが必要で、且つヒット率も低い根気のいる作業になります。コンタクトはしたものの、会話するにしたがって戦略が一致しなかったり、マーケットが一致しなかったので合わないケースも勿論多々あります。そのためにもある程度量をこなすことが必要です。

ただ後から知ったのですが、英国では電話はスパムが非常に多く、電話が取られる確率は非常に低いそうです。逆に昔ながらのメールアプローチを得意とする企業も存在します(メール内容は相当に練り上げます)。 またイベントのブースにはキーパーソンがいるケースも多く、話も進みやすいので、電話でのコールドコンタクトは(確率はゼロではないですが)あまり多くを期待しない方が良いというのがこれまで得た教訓です。また初期コンタクトを業務委託するにしても、その委託先が元々ターゲットになるパートナー候補とコネを持っていた方が当然ながら話が進むスピードも確度が全く違うので、自分がターゲットとしている企業へのコネもベンダー選定のポイントになります。

また製品だけでなく、代理店にとってはどのようなメリットが得られるかもポイントになるため、パートナープログラムのようなパートナーにとってのメリットをまとめた資料は用意しておくようにしましょう。とは言え、パートナーにとってのメリットはその製品を取り扱うことによる売上やブランド力向上なので、一にも二にも製品力とそれを見せるメッセージングが不可欠なのですが。

交渉が進むと当然、契約の話も出てくるので、代理店契約のひな形は現地の言語(最低でも英語)で前もって用意しておく必要があります。価格表なども要求される確率が高いので、現地語現地通貨で早めに用意しておくことが無難です。

ただ、(現金な話ですが)代理店交渉はこちらから顧客候補を紹介するとあっという間に進みます。鶏と卵ではないですが、100%代理店開拓に注力するのではなく、ある程度エンドユーザを開拓しておいた方が、顧客要望に関する知見を貯めるという意味でも有効と思います。

Regent Street

2018年11月18日日曜日

パートナーを探す(1)業務委託


「知見が乏しい海外のマーケットで事業を拡大するにはパートナーの存在が欠かせない」とよく言われますが、「パートナー」にも色々な種類があります。緩やかな技術パートナー(アライアンス)、販売代理店、OEM事業者等々。広義では拠点の一部業務の委託先も「パートナー」と呼ぶこともあります。まずは業務委託先探しに関しての私の経験をお話します。私の場合は以下の業務に関して、内製と委託を組み合わせながら事業運営しています(いました)。

1.       会計・税務
2.       労務
3.       営業マーケティング

12に関しては、英国で日本企業向けのサービスを提供しているところに委託しています。本来的には英国ローカルの事業者に頼んだ方が安く済むのかもしれませんが、この2つはかなり込み入った話になるケースもあり、その場合のディテールを会話上で日本語が望ましいと判断しました。特にこの2つは本社スタッフ部門の方が私より会話する機会が多いのですが、英国ビジネスの事情に精通して、英語もディテールを会話できるレベルのスタッフを抱えている会社は一般的には相当少ないという現実的な問題を考慮しても、日本人の委託先を探すのが妥当ではないかと思います。

ただ話を聞くと、割と悪質な日本企業ターゲットの事業者というのも、残念ながら存在するようなので、信用できる方からの紹介が良いかと思います。私の場合は、現地ビジネスに根を下ろしている日本人経営者の方に直接教えてもらいました。

3に関しては、リスクヘッジのため当初は業務委託先を探して委託しました。これもネットなどで探すのではなく、英国大使館や英国政府機関などから伝手を辿って行き着いた数社を入札して決めました。1年ほど委託してみて、これにはメリットデメリットがあったと思っています。簡単に言うと、

メリット
  • 人材採用コスト(時間を含めて)を下げられた
  • 委託事業者の持つ現地企業とのコネを利用できた

デメリット
  • 長期的には社員を採用するより割高
  • 営業活動を通じたノウハウを内部に蓄積するのが厳しかった
  • 委託業者が自社製品の知識を持っているわけではなく、正しい価値訴求ができるようになるまで時間が掛かった
  • KPI設定を誤ると委託先が迷走する(社員のように考えてくれることは期待しない方が良い)
  • 委託業者の中でキーマンが辞めた組織混乱の影響をこちらも受けてしまった(これは採用した社員が辞めても同じかとは思いますが…)


特にノウハウの部分が非常に大事で、外部の事業者は(契約切られるのを恐れてか)蓄積したノウハウの詳細を開示・文書化するのを渋る傾向があります。例えば、コンタクト数をこなすテレマーケティングなどを安く外注して、クロージングは自社社員でといった役割分担でノウハウも蓄積した方が有効ではないかと、今では思っています。KPI設定は私も試行錯誤でしたので、慎重に考え、シンプルな数値に設計しましょう。

Claremont Landscape Garden

2018年11月10日土曜日

リージョン間の交流


今回は少し余談です。英国での事業立ち上げのために赴任してから、これまで成功した決断と、それ以上に失敗した決断も無数にあったのですが、最も成功したと思っているのが、欧州事業を北米事業の(バーチャルで)下に付けるという決断でした。これによって何が起きたかというと、組織的にワンチームになったため、営業・エンジニアの交流が恐ろしいぐらいのスピードで進みだしました。お互い英語ネイティブなので、日本‐その他リージョンでの交流のような、ともすれば言語の壁から来る、コミュニケーションの壁もありません。チームの仲間が増えることは感情面でもチームにプラスになるので、リージョン間での組織的・心理的な壁が無くなることで、「どうすればサポートできるか」を皆考えるようにマインドセットも変わってきました。私をいちいち通さなくても日々どんどん議論が進んでゆくので、チーム力も勝手に上がって行きます。これはかなり驚きであると伴に嬉しい誤算でした。

丁度英国社員が入社してほどなく、チームアップのための「欧米の」オールハンズミーティングをやったのですが、これがまたタイミングよく情報交換が更に深まったため、大きくプラスに働きました。英米は言語もビジネスの考え方も近いので、交流によるチーム力向上を非常に楽しく見守ることができるようになりました。営業もエンジニアも、ユースケースや技術情報の交換により、思いの外、早期に立ち上がってくれたため、これは絶対的にお勧めできます。例えば、イギリスの優れた要素技術を持つベンチャーをアメリカ側に紹介したりといったことも、日々のコミュニケーションの中で気軽に出てきます。

リージョン同士の再編は大きい組織では簡単ではないですが、情報交流を促進するための仕組作りは、どのような規模の組織でもできます。SkypeSlackなど、コミュニケーションを促進するツールには今日事欠きません。最終的にはそれでビジネスが前進することが一番だと思います。企業が成長するためには製品力も不可欠ですが、人のダイナミズムがこれだけ影響するというのを目の当たりにしたのは、人生の中でも大きな喜びでした。(実はこのリージョンをくっつける重大な決断を30秒で決めたということはさておき…)

Winkworth Arboretum

2018年10月27日土曜日

拠点の登記

ハロウィンが近いので、カボチャを買ってきて作ってみました。結局半日作業でしたがが、カボチャが崩れないように顔を掘るのは意外と難しいものですね。


イギリスはアメリカほどではありませんが、ハロウィンカボチャの展示をやっているところがあり、Bodenham Arboretumはハロウィンカボチャの力作が園内に飾られています。私のような素人の作品とは次元が違います。



さて前回まで人材採用の話に回数を割き過ぎて、その前に必要な拠点登記の件を書き忘れておりました。事業内容に合うビザを決め、初期の事業戦略もそれに合った拠点の設立作業に入ります。

イギリスの場合は拠点の登記はそれほど難しい業務では無いので外注しても安価で済みました。私の場合は、普段お願いしている公認会計士に依頼しました。必要な書類のリストが出てくるので、その書類を揃えるだけです。イギリスの場合は、本社の役員が変わるたびに届け出なければいけないので、私の会社の場合は、株主総会で取締役が固まった時点で急いで書類の準備と登記を進めました。現在の欧米ではどの国も投資を奨励するため、法人登記そのものは比較的やりやすいと思います。現地資本の比率XX%といった縛りがある国だと資本政策含めて法人形態を色々どうするか考えなければいけませんが、その点ではアメリカやイギリス、欧州大陸の国々はかなり作りやすくなっているようです。日本本社のメガバンクでは、海外の各国の資本規制などを調べているので、主要取引銀行からそのようなレポートを取り寄せると良いかと思います。またジェトロもウェブサイトで情報公開しています。

どちらかというと登記より時間を割かなければいけないのは、登記の前段階として、法人形態を含めたビジネスプランを固めるところです。事業計画作成のところでも触れましたが、3-5年ぐらいを目安に、
  1. どのような事業をその国で行うのか
  2. ざっくりとした売上、費用、現地採用人数などの全体感
  3. その結果としてどのような法人形態が望ましいか、将来変更する可能性があるか

などは、その国によって登記の際に提出を求められるか求められないか温度差はありますが、社内での説明との整合性は取っておく必要があります。法人形態が支店や駐在員事務所の場合は、事業プランに応じてその法人の役割に関して、その後にもレビューが必要なケースが出てくるでしょう。3-5年先の中期的な計画をプランニングする際には、その拠点をどのように発展させてくるかという話の中で、拠点の株式会社化という話は出てくるかと思います。当然ながら駐在員のビザの更新にも影響してくることにもなるので、時間を割いてしっかりしたプランを作ることを後々のためにもお勧めします。

またその拠点の事業内容として、登記当初から営業活動を行うのか、マーケティング拠点にするのか、研究開発拠点にするのかなど、目的によって売上の立て方、翻って税務関係に影響してくるので、事業内容および、事業内容の転換を想定している場合はその想定時期なども登記当初から考慮しておかなければいけない課題となります。

拠点の登記と必ずしも同期する必要はありませんが、現地の法人口座を作ることやVAT事業者として登録するところは意外と時間が掛かるので早めに着手しましょう。拠点の確定申告や、従業員への給与や社会保障の支払い部分では必ず必要になってきます。イギリスでは社会保障費関連の支払いは法人口座から自動引き落とし(ダイレクトデビット)が一般的です。特にローカルの銀行では書類審査に時間が掛かることも多いと聞きます。もし本社の取引先銀行が、対象国に支店をオープンしている場合は、その銀行に開設した方がかなり省力化されると思います。VAT登録も法人の確定申告の際には必要になるので、対象国の年度末がいつかを意識して、早めに着手しましょう。

2018年10月12日金曜日

現地スタッフを採用する(4)


もうこの採用ネタ終わりにするつもりでしたが、前回までの3回分より先に考えるべき最も重要なことを書き忘れていたので、補足します。人材戦略・組織設計のお話です。
どのような事業戦略を立て、その実現のためにどのような組織が必要かは事業戦略の中の作るべきアイテムとして、以前触れました。
その際に大事なのが各機能別に誰をトップにするかを事前にある程度考えておくことです。具体的には例え小さい拠点でも、組織階層図を書いた方が、最初は人がいないポジションは「TBD」でも、自分を含めてどのような位置づけになるか明確になります。できれば3年後の組織図を書いて、どの人材をいつ採用するかも色分けしてビジュアル化することをお勧めします。どのような人材を必要としているか、数年後にどのような組織に発展させて行きたいか、戦略とそれに伴うProfit&Lossをまとめるのも楽になり、社内を説得する材料にもなります。特に拠点の立上げ期は人件費がほぼ大半を占めますので、人の採用と配置が決定的に重要になります。
可能なら、自分で機能別戦略を立て、マネジメントできる人材を最初に採用できるのが最善です。且つ、その人が立上げ期の会社や小規模の「自分で何でもやらなければいけない環境」での職務経験を持っている人がベストです。本来的にはそれで日本企業の(ある意味特殊な)カルチャーを理解していれば最高ですが、そこを吸収するのは駐在員の役割なので、最重要な要件ではありません。その人材に、最初はプレイングマネージャーとして動いてもらいつつ、部下として働ける人を引っ張ってきてもらいチームを作って自律的に動いてくれた方が継続的に成長する組織を作って行くことができます。特に営業職は、ヘッドカウントと売上がある程度比例するため、どのレベル(どれぐらいターゲット業界の顧客を持っているか、どれぐらい顧客のシニアレベル(C-Level)と会話できるか)の人をどれぐらい採用して、どのように動かして行くか(営業戦略)は、数年レベルで設計することが非常に重要になってきます。
実際に私は営業組織と技術組織の立上げのために、そのマネジメントができる人を採用しました。自律的に動けるシニアな人材を取ることによって、私自身は職を失うことになるかもしれませんが、組織の持続的な発展のためにはその方が良いと考え、現在もその方向性が機能しているので良かったと思っています。どんな組織になるか楽しみに思いながら日々生きています。
ちなみに下記の本は、どちらかというと大手企業向けですが、グローバルで人材戦略を考える際に参考になる本ですので紹介しておきます。





High Beeches

2018年10月6日土曜日

現地スタッフを採用する(3)


私の場合、最終面接も終わってめでたく第一号現地社員採用となったところで慌てて作って大混乱だったのが、オファーレターを含む提示書類一式でした。イギリスの場合、以下の一式の準備をしました。
1.      オファーレター
2.      雇用契約書
3.      コミッション・ボーナスの計算式に関するレター(雇用契約書の補足的な内容)
4.      個人情報の取扱いに関する同意書(Privacy Notice
5.      Staff Handbook(披雇用者としての行動規範)
6.      Job Description(披雇用者の職務定義)
5は別として、そもそも会社としてその国の現地社員を採用する段では、全てが初めてのことだと思います。人事・労務関連に詳しい現地の弁護士やコンサルタントは、採用活動前に必ず見つけておきましょう。後から探してオファーを出すのに時間ばかり掛かると、折角見つけた人材に逃げられるリスクが出てきます。当然のことながら、最終面接まで残るような優秀な人は、雇用者側がきちんと書類含めて受け入れる体制を持っているかも、判断材料として見ていると考えるのが自然です。
1から5の書類は現地の習慣的に大体テンプレートがあって、それに自社のルールを適用して修正するのが速いと思います。特に時間が掛かるのが、ボリュームが大きい245ですが、2は候補者との交渉の過程で手を入れるのに時間が掛かるケースもあります。採用を始める時点で、これらのテンプレートは作成に着手するのが妥当です。
私の場合は、これらを最終面接近くになって着手したので、人事や法務に相当迷惑を掛ける羽目になりました。結局、そのオファーを出そうとした第一号の人は、条件面で散々ゴネられ、最終的にオファーを蹴られたのですが、ゴネられている間に、時間の掛かる45を仕上げる時間の余裕が生まれ、次の候補者にはスムーズにオファーを提示できたというケガの功名もありました。しかも、その最初にゴネた人は、後日談で履歴書をかなり盛っていて、採用しないで良かったというオチも付いた次第です。
英国は日本と労務関係の制度・習慣は近いとは思いますが、それでも細部には違いがあります。例えば、
  • ロンドンは不動産が高過ぎて住めないため、シェアードオフィスが日本と比べてかなり普及しています。普段は自宅勤務、連絡手段は電話やスカイプのようなウェブ会議システム、どうしてもFaceToFaceが必要な場合だけロンドンに出てくるという人が大半なので、面接時に「週に何回出勤必要か?」と聞かれた時は日本の感覚との違いに驚きました。
  • 通勤に掛かる費用も給料込みという考え方なので、自腹が基本。逆に通勤費を支給することをメリットとしてアピールしている日系企業もあります
  • 定期昇給という考え方が無く、給料(基本給)が上がるのは、Job Descriptionに項目が追加された時(つまりやることが増えた時・レベルアップした時)だけという考え方

以上のように、細かいところは現地のプロでないと事前に知ることは困難なので、人材エージェントもある程度情報を持っていますが、労務系のプロは非常に重宝します。
めでたく雇用契約書にサインをもらい、入社日も調整できたら、労務回りのところを色々準備する必要が出てきます。現地の規制に合わせた給与計算などの準備は、採用が決まった時点で財務などとの調整が必要ですが、現地の給与計算もほぼ全てのケースで、会社としては経験が無いと思うので、現地の公認会計士に早めに相談しましょう。またIT周りの準備はとにかく前倒しで最優先で進めます。入社時点でメールアドレスや社内システムの利用などをマニュアルも含めて準備する必要が出てきます。営業職はメールアドレス、電話番号、名刺が無いとそもそも活動できません。経費精算やSFAなども早めに関係部署と調整してアクセスできるようにしておきましょう。
またシニアの人を採用する場合は、当然即戦力として採用していると思うので、入社時に入社後30/60/90日でどのような活動をするか、仮説で良いので準備してもらい、それをベースに入社後のやるべきことをディスカッションするのが良いかと思います。

Rousham House & Gardens

2018年9月22日土曜日

現地スタッフを採用する(2)


前回のブログでの、エージェントとのコミュニケーションに関して、書き忘れたことを捕捉します。

多くのケースで採用担当者は、始めはその国の採用慣行に関して、詳細に知らないケースが多いと思いますので、人材エージェントはそのような重要な情報を知っている重要なソースになります。日本の採用慣行は他の国とは違うという認識の元、積極的に情報をもらいましょう。例えば、想定している職種やランクの人の一般的な給与水準、給与のベースとボーナス(コミッション)比率、その他のコスト(年金等)など。

またエージェントには、事前にボーナス(コミッション)の考え方を提示しておくことが、営業職採用の場合は特に重要になります。Job Descriptionと一緒に、報酬の考え方はエージェントに提示し、現地の慣行上おかしければ、エージェントに指摘してもらうなどして、ブラッシュアップしましょう。また給与以外の福利厚生もある程度、提示しておく必要があります。有給休暇日数、年金、労災保険など、日本とは当然現地の事情は異なるので、面接のプロセス(面接が何回、どのような役職の人と面接するか)を定義したら、候補者のCVを送ってもらい、面接のプロセスに入ります。社内でもどの人がどのような観点で面接するかは事前に役割分担をしておいて、抜け漏れが無いようにしましょう。営業職の場合は、対価に見合う成果を出してもらう必要があるので、簡単なビジネスプランを作ってもらい、それをベースに面接すると良いかと思います。

また、純粋なローカル候補者は日本の会社との接点が少ない人が多いと思います。過去に接点が無いまでも、自分の会社の価値観やビジョンは伝え、共感できるかどうかも率直に聞いておきましょう。単にスキルだけだとカルチャーギャップからすぐ辞めるケースも出てきます。案外、その人の趣味とかへの質問から、その人が仕事において何を大事にしているかも見えてきます。

面接も最終段階まで来たら、候補者の現職・前職の人へのリファレンスは必ずとりましょう。英国の場合は、最低2人、そのうち1人は現職の直属の上司からのリファレンスを雇用の条件にするところが多いです。日本の感覚だと違和感がありますが、それだけ「履歴書を盛る」人が多い裏返しかもしれません。リファレンスは現職・前職でのコンプライアンス違反の有無から、職場でのパフォーマンスまでダイレクトに聞くのが一般的だそうです。例えば「あなたの部下が私の会社のインタビューを受けていて、オファーを出すつもりなんだけど、彼/彼女に関して、話を聞かせてほしい」と、なかなか日本では想像がつかない会話が展開されますが、直近直属の上司がその候補者のことを最もよく分かっているので、良い制度だと私は思います。

Lyon

2018年9月8日土曜日

現地スタッフを採用する(1)

その拠点の戦略にも依りますが、駐在員だけでは開拓できるマーケットが限られるため、いずれ現地スタッフ採用の必要が出てくるところが大半かと思います。拠点設立の承認あるいは年度末のタイミングなどには、拠点での人材計画を立てて、それに基づいて採用を進めて行きます。
まず考える必要があるのは、ここで日本語が喋れる人材を採用するかどうかです。どこに国にも日本語ができる or 日本企業で働いた経験のある人材はいますし、そこに特化した人材エージェントもいるので、「スキルに拘らなければ」比較的採用しやすいのが実情です。駐在員はともかく、グローバル化を目指し始めたばかりの企業の日本本社で、英語でローカル人材と細かいレベルでコミュニケーションが取れる人材がいるケースは極めて稀だと思います。そのような状態では日本語ができることが重視されがちですが、それによって肝心の戦略を実現するのに必要なスキルが無いのでは本末転倒になります。特に海外事業は早期に黒字化するためにも時間との戦いになるので、スキルが足りないローカル人材を雇った場合にOJTで育てている時間もありません。ローカル人材と本社のコミュニケーションギャップを埋めるためには、駐在員が(いれば)副次的な作業はサポートして、ローカル人材には戦略の実行に全力でリソースを割いてもらう覚悟も必要です。
日本ほど事情の分からないマーケットでは、良い人材エージェントを選ぶことが死活問題になります。私もイギリスで人材採用をすることになって初めて知りましたが、欧米ではLinkedInから候補者を見つけてきて、雇用者に紹介するところに特化したエージェントも出てきています。昔のように、大手の人材エージェントが候補者のプールを抱えて規模の優位性を活かす状態が崩れつつあるわけです。そのような時代にあって人材エージェントに求められる要件は、規模ではなく、「披雇用者の必要とする人材像を正確に理解していること」ということになります。逆に披雇用者としては、人材像を正確に定義し、それを人材エージェントに伝えることが重要になります。昔のように多数のエージェントと契約して、人材の紹介を数でこなす必要はありません。正確に要件を理解してもらえるエージェント1-2社と付き合えれば十分な時代になりつつあります。例えば、私のいるIT業界では、「テクノロジー業界に強い」ことを謳っている人材エージェントは多いですが、もう少し細かいレベルで私が携わっている製品が所属する市場がどのようなもので、その結果どのような人材を必要としているかというところまで理解しているエージェントは多くありません。担当の人材エージェントにこちらの要望を正確に伝えることは勿論ですが、その人材エージェントが人材像を理解しているかは必ずチェックし、面接後は自分とエージェントの考える人材像にズレを無くすために、候補者の良い面も悪い面も面接後は必ずフィードバックを欠かさないようにしましょう。
例えば「ソフトウェア業界で営業経験20年。金融大手とのディールも多数」みたいな紹介のされ方が一番「ヤバい」パターンです。「ソフトウェア業界」と言っても千差万別ですし、少なくとも自分のいる業界と同じか近い業界の経験が無いと、製品の特性を理解するのに入社してから苦労することになります。人材エージェントも要件を理解していないことを示唆しています。人材エージェントに勉強してもらうためにも、候補者だけでなくエージェントとの継続的なコミュニケーションは欠かせません。その観点からも、付き合えるエージェントの数は絞った方が良いと思います。


Cheltenham

2018年8月23日木曜日

ビザを考える

現地に拠点を立ち上げる場合、直接拠点を立ち上げてくれる現地人材がいれば申し分ないですが、そうならないケースがほとんどで、本社の人がしばらく立ち上げをやることになります。その際にその国のどのビザを取得するかを考えることは、地味に非常に重要で、後々まで影響します。このビザは法人形態にも影響します。国によっては法人形態(現地子会社、駐在員事務所他)によって取得できるビザの種類が変わってくるケースもあります。
たいていビザの情報は、その国の移民関係官庁のページに詳しく記載されていますが、詳細な提出書類などのディテールは、その国の移民法に詳しい弁護士の協力が必須となります。どこの国にも日本語サポートができる弁護士はいますが、英語のディテール解釈に自信が無い場合は、そのような窓口がある弁護士事務所を探しましょう。ここを間違うとネガティブなインパクトが大なので、支出は惜しむべきではありません。仕業はどこの国でも横の繋がりがあるようで、私の場合は英国公認会計士に、移民法に詳しい方を紹介して頂きました。
どこの国にも、会社をゼロから立ち上げる起業家ビザはありますが、例えば、英国の場合は、海外親会社から英国子会社に派遣されるビザもありますし、海外本社がある会社の英国拠点立上げのために付与される特別なビザ(Representative of an oversea business)もあります。その国によっては該当しそうなビザが複数出てくる可能性があるので、以下のようなところも注意しつつ申請を進める必要があります。

  1. そのビザを発行する要件(家族同伴の場合は、家族も含めて)。一番注意が必要なのは、派遣元の企業での就業期間が要件に入っている場合です。例えば、海外拠点立上げのために入社した人が、よくよく確認したら、就業期間の要件(イギリスの場合は、海外企業からの派遣の場合、「12ヶ月」という要件があったりします)を満たしていないため、全てが水泡に帰する羽目になったということもあり得るので、特に注意が必要です。次に重要なのは、語学テストや健康診断などが、申請の要件に入っている場合は、そのリードタイムの確認が必要です。
  2. ビザの期間と、更新の要件。派遣される人がキーになるマネジメントの場合は、全ての戦略に影響してくるので特に注意が必要です。
  3. そのビザで検討している子会社や駐在員事務所が立上げ可能か。
  4. ビザは拠点を登記する前でも発行可能か、登記が先か。登記、ビザ申請のリードタイムを鑑みてどのタイミングで申請するのがベストか。
  5. ビザ申請前にその国に(出張等で)入国できるタイミングはいつまでか(越えてしまうと、ビザ申請が遅れます)
  6. 起業家ビザの場合、資本金や雇用する従業員数などで要件はあるか


移民法弁護士や、現地の投資促進機関(例えば英国だと、Department for International Trade)等には早めに連絡を取って、アドバイスを受けましょう。


Town Musicians of Bremen

2018年8月14日火曜日

味方を増やす

どのようなプロジェクトでもそうですが、社内にはグローバル化に反対する人は必ずいます。グローバル化そのものはトップの号令で始まるケースが多いですが、そのようなスポンサーとしてのトップ層だけではなく、グローバル化するに当たってキーになる部門の協力は不可欠になります。例えば、拠点立上げ当初に本社のリソースに頼らなければならない場合、以下のような部門が関わってきます。
1.    製品開発部門、プロダクトマネージャ: 製品、マニュアル等の多言語対応、海外向け製品ロードマップ作成
2.    サポート部門: サポートサービスの多言語対応、拠点との時差を考慮したサポート体制の構築(例: 24H英語サポート)、代理店向け技術トレーニング
3.    マーケティング部門: マーケティングコンテンツの多言語対応、ウェブサイト多言語対応、海外マーケットでのフィールドマーケティング、デジタルマーケティング、マーケティングオートメーションの体制構築
4.    財務部門: 海外での法人口座開設、経費精算など諸々
5.    人事部門: 海外人材採用や労務管理等
6.    法務部門: 海外顧客向け契約・規約の整備(各国ごと)、代理店契約等整備、個人情報保護体制と関連文書の整備等
7.    経営企画・総務部門: 海外進出のための各種決議事項の摺合せ
などなど、社内のほとんど全ての部門が関わってきます。
ただ実際には、「社長が言っているから」という理由でやらされ感でやっている人も少なからずいます。また心理的にはグローバル化を応援していますが、いざとなると腰が引ける、足が動かないといった人もいます。実際に海外に赴いて本社から離れてしまうと、本社とのコミュニケーションの密度は確実に落ちます。協力が必要な部門には、事業計画の説明など地道にやって味方を増やしておきましょう。
また社外の味方を増やしておくことも重要です。例えば、日本国内のパートナーで、進出先の国に拠点を持っている会社とは、日本でのパートナーシップをそのまま活用することができるので、進出先の拠点を紹介してもらうなど、積極的に関係を発展させることが重要になります。可能なら、日本国内の顧客の海外拠点を紹介してもらうということも検討しましょう。「味方を増やす」というよりは「海外進出していることを知ってもらう」という話ですが、海外に拠点を出して顧客・パートナーのサポートを強化することはポジティブな情報なので、より多くの人に知ってもらうことは決してマイナスにはなりません。


Chipping Campden

2018年7月28日土曜日

初期の事業計画・GoToMarketプランを作る


前回までで説明したFeasibility Studyも現地に拠点が無い場合は、何度もヒアリングのために足を運ぶことになります。長期出張などをしながら半年以上、場合によっては数年かけて調査を進めることもあるので、体調管理はご注意を。私も1年間、何度も欧州各国に長期出張するのは、身体的に結構こたえました。
さて、一通り調査が終わった段階で、最初の事業計画をまとめる作業に着手します。ただし、ナンシー・ハバードの書籍でも触れられていますが、最終的に進出は諦めて、国内事業に専念するという選択肢もあることは念頭に置いて、それでも10億円投資する価値があるかどうかをシビアに評価しましょう。私の場合は、英国でのグリーンフィールド投資という結論になりましたが、事業計画には以下のような内容を盛り込みました。結局はこちらのブログでも触れた一連の問いに対しての答えを書いて行くイメージです。

1.      Product/Market Fit: 自社製品・サービスに関連のある市場(具体的な顧客)で、既存の製品・サービスでは満たしきれていないPain Pointについて、なるべく具体的に記載します。そのPain Pointについて、自社製品だけで解決可能か、機能が足りない場合は新しい機能を開発、あるいは他社の技術を取込むことで解決可能かを記載します
2.      その想定されるPain Pointに対するソリューションの市場規模と、そこからもたらされる想定売上
3.      自社の現在の技術のみでソリューションが提供できるなら問題ないですが、新規開発が必要な場合、新規開発に掛かるコストや期間を、製品開発部門等と相談の上、見積もります。他社技術が必要な場合は、その技術を保有している候補企業と、実際に取込むために必要な提携の形態(緩やかなアライアンス、OEM供給、M&A等)を記載します。
4.      自社にしかない技術で、解決できるPain Pointも明確なら良いですが、往々にして現地には先行して進出している競合や地場の競合が存在します。主だった競合とその強み弱み、(手に入るなら)売上・組織体制などの情報も収集しましょう。グローバルで展開している信用調査会社(D&B, Experian等)からCredit Reportを手に入れるだけでも多くの情報が得られます。その上で、グリーンフィールド投資なのか、競合のM&Aか、その他の戦略的提携をするのか、はたまた投資を一旦見合わせて引き続き調査継続するなり国内事業に専念するなりの戦略的選択肢を記載します。
5.      (特にグリーンフィールド投資の場合)現地に拠点を置くことの妥当性を検討。そのソリューションが受け入れられる市場(企業)は(物理的に)どこに存在するか。その市場を開拓するのに、最も妥当な場所はどこか。日本のように東京一極集中ならストーリーは作りやすいですが、市場が分散している場合は、交通の便、税制優遇措置(各国大使館・ジェトロ経由で情報を仕入れられます)などを総合的に判断します。
6.      その拠点の最も妥当な法人形態は何か(子会社、駐在員事務所等)

次にGoToMarketプランも書いて行きます。私はSTPとマーケティング5Pぐらいは網羅しました
7.      STP(Segmenting, Targeting, Positioning)  1にも通じますが、要はターゲットとなる顧客層をどのように捉えているか、どのようなメッセージ(Value Proposition)で訴求するかです。
8.      Product 3と同じ。どのソリューションで戦うかです。
9.      Price:国内とは物価水準やそのソリューションに対する価格感も異なると思いますので、現地で受け入れられる価格を考えます。競合に対して低価格で攻める戦略もありですが、収益性優先のために逆に高価格戦略を取ることもあり得ます。
10.      Place:市場にリーチする販路は何か(直販、代理店等)?
11.   Promotion9の販路で進める場合に想定されるマーケティング方法をマーケティング部門等と詰めます。例えば、想定売上げを達成するために必要なリード数から、必要なマーケティング施策やコストを逆算して行きます
12.   People:その市場にリーチするために必要な人材像、組織体制について記載

グリーンフィールド投資の場合、初期の立上げ費用の大半は人件費とマーケティング費用になるので、1011ができた時点で、必要なP/Lが大体見えて来ます。
13.   売上・費用などの係数計画: 売上は市場規模と、価格、営業体制を考慮して算出します。費用は上記まで詳細に記載すれば大まかに見えてくるかと思います。それを3-5年単位でまとめましょう。「3年で単年黒字(営業黒字)、5年で累損解消」というのはよく言われる言葉ですが、売上を稼ぐにはそれだけ営業がいないと回らない(固定費を掛けなければならない)ので、細かい言葉には惑わされず現実に即した数字でまとめましょう

ここが進出前の最も重要、且つここまでのF/Sの集大成になります。


Kew Garden

2018年7月22日日曜日

Feasibility Study(3)ヒアリング調査実施


F/Sの最重要項目は(潜在)顧客、(潜在)パートナーへのヒアリング調査になります。「潜在」と書いているのは、まだ進出計画先に顧客基盤が無いことが大半だと思うからですが、既に顧客がいる場合はその顧客をヒアリング対象に含めても問題ありません。ただ以前も書きましたが、F/Sで明らかにすべき最も重要な点は「自社のソフトウェアが受け入れられる市場(業界、顧客、具体的なPain Point)があるか?自社製品の機能が足りない場合、新しい機能を開発、あるいは他社の技術を取込むことで解決可能か?」というところであり、ヒアリングもその点を明らかにすることに集中させます。Jason Calacanisの言葉を借りると「Product/Market Fit」を見つけるというところでしょうか。
個別の顧客へのヒアリングは、自社の環境や自分の思いに対してバイアスがかかってしまう可能性があるので、パートナーや有識者(大学教授など)に聞くことを組み合わせることも有効です。ただしパートナーは顧客と比べてアポが取りやすい(パートナーシップの可能性があればパートナー側も無下にはできないので)ですが、市場規模など含めて割と楽観的なことを言うことがあるので注意が必要です。私の場合、ヒアリングの対象としてパートナーが多くなってしまい、顧客の声が少ない分、後で苦労することになりました。顧客の声をダイレクトに聞ける機会はお金を払ってでも設けるべきだと思います。
では、アポが取りにくい顧客へのアプローチはどのようにすべきかというと、私の場合は、その対象地域での調査会社やビジネス開発専門の会社を探して、ヒアリングのプロジェクトを組みました。そのような調査をしてくれる会社を探す場合には、検索等で調べると安かろう悪かろうの業者に当たる可能性が高いので、大使館や業界団体、人づてで紹介してもらうことが一番です。先方も他人からの紹介だと信用もあるので、変なことはできません。そのような会社は地場でのネットワークを活かしてアポを取ってくれるので、まずはプロジェクトのバックグラウンド、スコープ、期間、成果物、予算などを含めた簡単なRFP Request For Proposal)を英語か現地語で作り、それをツールとして対象機関や企業にコンタクトを開始しましょう。私の場合は、色々なところにそのRFPを使ってコンタクトしましたが、やはり大使館や政府機関から紹介された調査会社が良く動いてくれた印象です。
繰り返しになりますが、10億円(それ以上)投資するための調査ですので、手間とお金は惜しまずしっかりと予算を取って進めましょう。

Lake District

2018年7月14日土曜日

Feasibility Study(2)大使館、業界団体等を訪ねる


ワールドカップは日本もイングランドも残念な結果になりました。
前回のブログの最後に大使館やジェトロにコンタクトすることについて書きました。またマクロ情報を仕入れるソースとしては、会社として取引している銀行が、進出検討先の拠点を持っていれば、そのような拠点が現地の統計や法律、輸出入に関する情報を持っているので、そのような情報が入ったレポートを持っていないか聞いてみても良いかと思います。
これらのソースから手に入れる情報はかなりマクロな情報が多いですが、PEST分析の初期の情報としては十分です。またできる限り手間を惜しまず、直接会いに行くことをお勧めします。なぜなら、そこから更に現地でのビジネスを進めて行く上で役に立つ別の組織や人を紹介してもらえる可能性が高いからです。
例えば欧州の場合は、イギリスもドイツもフランスも、進出を検討している地域への投資を促進する政府系(or 準政府系)機関が存在しており、それらの機関の方が、現地のより詳細なビジネス情報や、現地の進出に当たって必要な人や組織の情報(弁護士、会計士、調査会社、人材エージェント等も含めて)持っています。私自身も大使館、ジェトロ、銀行等の紹介には随分助けられましたし、今も活きています。対象となる地域への投資を検討していれば彼らも快く情報を提供してくれる可能性が高いので、是非積極的に会いに行ってみましょう。
ただ、前回も書きましたが、彼らの持っている情報は「広く浅く」なので、闇雲にコンタクトすると、収集が付かなくなります。自身の仮説は忘れず、その仮説の可否の判断に関わる情報を効率良く集めるようにしましょう。
情報を集めて行って深掘りを進めて行くと、一定段階で必ず「ここから先は現地に直接足を運ぶか、調査会社に頼まないと情報収集できない」という段階に到達します。そこから先は更なる調査に必要な予算や現地(長期)出張等を考慮して深掘りを進める次の段階に入ります。

Knebworth House


続く

Feasibility Study(1)

この項目は今後何回かに分けて書くことになります。なぜなら会社にとって最低でも数億円単位の投資になる重要な話だからです。Feasibility Study(実行可能性調査、フィジビリティスタディ、F/S)とは様々なプロジェクトの実現可能性を事前に調査することで、海外事業の立上げでも、その投資判断として海外進出前に必要になってきます。
私はF/Sに約2年弱費やしました。私の人件費、出張経費等含めてもこれ自体、1千万円を超える投資になりますが、失敗すると数億円の負債になることを考えると決して疎かにしてはいけません。英国で幅広い会社を見ている公認会計士が「Feasibility Studyを疎かにしたまま進出して痛い目に合う企業が多い」というお話をされていました。事業内容として、「現地の市場調査」を目的として設立される現地法人もあります。これは様々な意味を含んでいますが、「法人を設立してF/Sを長期継続する」ということも当然含まれてきます。それぐらいF/Sは重要であり、時間の掛かることなのです。
当然のことながらF/Sの結果、「国内市場に専念する」という結論もあり得る選択肢です。「そんなこと言っても今年度末までに海外進出すると株主に説明してしまったんだ。何とかしろ」という経営陣がいたら、きちんとリスク含めてディスカッションしましょう。前回のブログでも書いたように、グリーンフィールド投資だけが海外投資ではありません。
さて、具体的にはF/Sに関して、定型のテンプレートは無く、様々なリサーチの集合体です。私の場合は、B2Bソフトウェアを事業として扱っていたので、F/Sの目的は突き詰めると、以下のような問いを明らかにすることでした。
1.      自社のソフトウェアが受け入れられる市場(業界、顧客、具体的なPain Point)があるか?自社製品の機能が足りない場合、新しい機能を開発、あるいは他社の技術を取込むことで解決可能か?
2.      受け入れられる市場はターゲットとしている市場の特定地域か?例えば欧州だと国によって言語が異なるため、その言語に対応できているかどうかで地域が限定されます。
3.      その市場は投資するに見合う規模か?採算が取れるか?
4.      その市場にリーチする販路は何か(直販、代理店等)?その市場にリーチするために必要な人材像、組織体制は?
5.      競合は何か、自社は競合に対して優位性を持っているか。その優位性は上記Pain Pointに響くものか?
上記の問いに答えて行くために、最初はPESTPolitics, Economy, Society, Technology)分析のようなマクロ分析から始めて、3C分析(Customer, Company, Competitor)など詳細にブレークダウンして行くことになります。漫然と分析を開始してしまうと、幅広過ぎて、収集が付かなくなってしまうので、「顧客のPain Point」を第一のプライオリティに置いて、仮説を立て、その仮説に基づいてPEST分析、3C分析などを進めて行く必要があります。PEST分析に必要なマクロ情報はとっかかりとして、ジェトロのサイト(https://www.jetro.go.jp/)には各国のレポートやマクロ統計情報が載っているので役に立ちます。またターゲットとしている国の駐日大使館、やジェトロの現地事務所にコンタクトして直接情報を仕入れることも有効です。

Kiftsgate Court Gardens

続く

本の紹介(1)-ナンシー・ハバード『16ヵ国50社のグローバル市場参入戦略』



前回の記事で「自分の知見を共有する」と言っておきながら、いきなり本の紹介から入るのですが、この本はそもそもグローバル化の戦略を具体的に考える前に必ず読んで頂きたい必読書になります。

なぜならグローバル化の戦略はグリーンフィールド投資(現地法人を新しく設立して、設備や従業員の確保、チャネルの構築や顧客の確保を一から行う投資の方式のこと)だけではなく、買収など様々な方法があり、B2Bのビジネスではグリーンフィールド投資の成功確率が低いという身も蓋もない現実が豊富な事例と伴に記載されているからです。

日本を出てビジネスをグローバル化する理由は何でしょうか?
・新たな収益源を創りたい!
・ブランドを世界に浸透させたい!
・海外の優れた技術を取り込んで新しい製品を開発したい!
他にも色々あると思いますし、この中の全てというケースも当然あると思います。

ただ強調しておきたいのは、グローバル化は会社にとって大きな投資であり、退出リスクも高いものです。また立ち上げ当初は当然限られたリソースで事業を回す必要がありますので、目的をきちんと定めることと、目的が複数ある場合はその優先順位を決めておく必要があります。そしてその目的を果たす方法がグリーンフィールド投資なのかどうかは、当然客観的な検討が必要になります。

それがまた別の機会にお話しするFeasibility Studyの基盤になり、その後の事業計画にも影響してきます。例えば、製品開発に繋げるための技術発掘を目的とするなら、子会社ではなく、駐在員事務所で十分ですし、インターネットでその技術を持っている会社を見つけて個別にライセンス契約を結べば、駐在員事務所ですら要らないかもしれません。

よくありがちなのが、「グローバル化したい」という思いだけが先行し、そこに後付けで、もっともらしい目的を付けるケースです。「自社の製品は素晴らしいので海外でも売りたい・売れるに違いない」と思った時は要注意。私も日本の製品・サービスの素晴らしさは十分理解していますが、嘗て日本の携帯電話の海外での苦戦の歴史を見ても、世界に出て行く際には余程突出した技術が無い限り、ローカライズは必須になります。上記の本はそのようなプロダクトアウトの目線を相対化する上でとても役に立ちます。

また以下もローカライズでの成功事例に焦点を当てた良書なので、ご参考までに掲載しておきます。
ビジャイ・ゴビンダラジャン+クリス・トリンブルー著『リバース・イノベーション』


English Countryside

それではまた。

ブログ始めました

はじめまして。MetalOssanと申します。このブログは私の海外事業立ち上げの中での体験を、成功も失敗も含めて、読者の皆様に共有しようと思って始めたものです。前から色々な方からブログを書くことを勧められていたのですが、目的は「自分の経験を話すことで、日本の(特にB2Bの)中小企業がグローバルに出て行く際のヒントを提供する」ことです。

以前、英国人の友人から、「少子高齢化が進む中で日本の一番の課題はグローバル化だ」という話が出て、深く頷くことがありました。かといって言語・ノウハウ面での情報不足からグローバル化に二の足を踏むケースは多いと思っています。大企業には私より優秀なグローバル人材がたくさんいますが、グローバルのマーケットを専門とする人材を社内に抱える or 積極的に採用できる中小企業はまだまだ少数だと思っています。ブログで私の経験を伝えることを通じて、(陥りがちな落とし穴も含めて)自社のグローバル化を考える上での一助となれば幸いです。私の経験をベースに書くので対象となる読者層は以下を想定しております。
・日本のまだ海外進出していないが、海外進出をこれから検討したい企業
・産業材、産業向けサービスを提供するいわゆるB2B企業
・これから海外進出プランを練らなければいけない現場担当者
なので、海外事業部などがあり、進出ノウハウがある人が見ても得るものは少ないと思います。

少しだけ私のバックグラウンドを少しお話しすると、
20-30代は外資のソフトウェアベンダーでエンジニア、マーケティング、ビジネス開発等経験
・現在は、日本の中小B2Bソフトウェア企業の欧州事業立ち上げのため、2017年春から英国ロンドンに駐在
・英国への留学経験あり(MBA
40代の脇腹の成長に焦りを隠せない普通のオッサン。妻一人、息子一人。週末はイングリッシュガーデン巡り、レストラン巡りなどで過ごしています。音楽はメタルからクラッシックまで幅広く聞きますが、家族がいるので気軽に一人でライブなどに行けないところが最近つらいところ(涙)。
というところでしょうか。

このブログではなるべく汎用的にどのような会社でも使える知見を中心に書く予定ですが、会社の秘密事項は当然離せないですし、秘密でないことでも抽象化することも多いと思います。また隙間の時間で書くので、のんびり更新して行くことになると思います。またブログの中の意見は私個人のもので、会社の見解とは無関係のものということをお断りしておきます。文章も馴れてないのでヘタクソです。

こんな私ですが、よろしくお願いいたします。



London Piccadilly Circus