2018年10月27日土曜日

拠点の登記

ハロウィンが近いので、カボチャを買ってきて作ってみました。結局半日作業でしたがが、カボチャが崩れないように顔を掘るのは意外と難しいものですね。


イギリスはアメリカほどではありませんが、ハロウィンカボチャの展示をやっているところがあり、Bodenham Arboretumはハロウィンカボチャの力作が園内に飾られています。私のような素人の作品とは次元が違います。



さて前回まで人材採用の話に回数を割き過ぎて、その前に必要な拠点登記の件を書き忘れておりました。事業内容に合うビザを決め、初期の事業戦略もそれに合った拠点の設立作業に入ります。

イギリスの場合は拠点の登記はそれほど難しい業務では無いので外注しても安価で済みました。私の場合は、普段お願いしている公認会計士に依頼しました。必要な書類のリストが出てくるので、その書類を揃えるだけです。イギリスの場合は、本社の役員が変わるたびに届け出なければいけないので、私の会社の場合は、株主総会で取締役が固まった時点で急いで書類の準備と登記を進めました。現在の欧米ではどの国も投資を奨励するため、法人登記そのものは比較的やりやすいと思います。現地資本の比率XX%といった縛りがある国だと資本政策含めて法人形態を色々どうするか考えなければいけませんが、その点ではアメリカやイギリス、欧州大陸の国々はかなり作りやすくなっているようです。日本本社のメガバンクでは、海外の各国の資本規制などを調べているので、主要取引銀行からそのようなレポートを取り寄せると良いかと思います。またジェトロもウェブサイトで情報公開しています。

どちらかというと登記より時間を割かなければいけないのは、登記の前段階として、法人形態を含めたビジネスプランを固めるところです。事業計画作成のところでも触れましたが、3-5年ぐらいを目安に、
  1. どのような事業をその国で行うのか
  2. ざっくりとした売上、費用、現地採用人数などの全体感
  3. その結果としてどのような法人形態が望ましいか、将来変更する可能性があるか

などは、その国によって登記の際に提出を求められるか求められないか温度差はありますが、社内での説明との整合性は取っておく必要があります。法人形態が支店や駐在員事務所の場合は、事業プランに応じてその法人の役割に関して、その後にもレビューが必要なケースが出てくるでしょう。3-5年先の中期的な計画をプランニングする際には、その拠点をどのように発展させてくるかという話の中で、拠点の株式会社化という話は出てくるかと思います。当然ながら駐在員のビザの更新にも影響してくることにもなるので、時間を割いてしっかりしたプランを作ることを後々のためにもお勧めします。

またその拠点の事業内容として、登記当初から営業活動を行うのか、マーケティング拠点にするのか、研究開発拠点にするのかなど、目的によって売上の立て方、翻って税務関係に影響してくるので、事業内容および、事業内容の転換を想定している場合はその想定時期なども登記当初から考慮しておかなければいけない課題となります。

拠点の登記と必ずしも同期する必要はありませんが、現地の法人口座を作ることやVAT事業者として登録するところは意外と時間が掛かるので早めに着手しましょう。拠点の確定申告や、従業員への給与や社会保障の支払い部分では必ず必要になってきます。イギリスでは社会保障費関連の支払いは法人口座から自動引き落とし(ダイレクトデビット)が一般的です。特にローカルの銀行では書類審査に時間が掛かることも多いと聞きます。もし本社の取引先銀行が、対象国に支店をオープンしている場合は、その銀行に開設した方がかなり省力化されると思います。VAT登録も法人の確定申告の際には必要になるので、対象国の年度末がいつかを意識して、早めに着手しましょう。

2018年10月12日金曜日

現地スタッフを採用する(4)


もうこの採用ネタ終わりにするつもりでしたが、前回までの3回分より先に考えるべき最も重要なことを書き忘れていたので、補足します。人材戦略・組織設計のお話です。
どのような事業戦略を立て、その実現のためにどのような組織が必要かは事業戦略の中の作るべきアイテムとして、以前触れました。
その際に大事なのが各機能別に誰をトップにするかを事前にある程度考えておくことです。具体的には例え小さい拠点でも、組織階層図を書いた方が、最初は人がいないポジションは「TBD」でも、自分を含めてどのような位置づけになるか明確になります。できれば3年後の組織図を書いて、どの人材をいつ採用するかも色分けしてビジュアル化することをお勧めします。どのような人材を必要としているか、数年後にどのような組織に発展させて行きたいか、戦略とそれに伴うProfit&Lossをまとめるのも楽になり、社内を説得する材料にもなります。特に拠点の立上げ期は人件費がほぼ大半を占めますので、人の採用と配置が決定的に重要になります。
可能なら、自分で機能別戦略を立て、マネジメントできる人材を最初に採用できるのが最善です。且つ、その人が立上げ期の会社や小規模の「自分で何でもやらなければいけない環境」での職務経験を持っている人がベストです。本来的にはそれで日本企業の(ある意味特殊な)カルチャーを理解していれば最高ですが、そこを吸収するのは駐在員の役割なので、最重要な要件ではありません。その人材に、最初はプレイングマネージャーとして動いてもらいつつ、部下として働ける人を引っ張ってきてもらいチームを作って自律的に動いてくれた方が継続的に成長する組織を作って行くことができます。特に営業職は、ヘッドカウントと売上がある程度比例するため、どのレベル(どれぐらいターゲット業界の顧客を持っているか、どれぐらい顧客のシニアレベル(C-Level)と会話できるか)の人をどれぐらい採用して、どのように動かして行くか(営業戦略)は、数年レベルで設計することが非常に重要になってきます。
実際に私は営業組織と技術組織の立上げのために、そのマネジメントができる人を採用しました。自律的に動けるシニアな人材を取ることによって、私自身は職を失うことになるかもしれませんが、組織の持続的な発展のためにはその方が良いと考え、現在もその方向性が機能しているので良かったと思っています。どんな組織になるか楽しみに思いながら日々生きています。
ちなみに下記の本は、どちらかというと大手企業向けですが、グローバルで人材戦略を考える際に参考になる本ですので紹介しておきます。





High Beeches

2018年10月6日土曜日

現地スタッフを採用する(3)


私の場合、最終面接も終わってめでたく第一号現地社員採用となったところで慌てて作って大混乱だったのが、オファーレターを含む提示書類一式でした。イギリスの場合、以下の一式の準備をしました。
1.      オファーレター
2.      雇用契約書
3.      コミッション・ボーナスの計算式に関するレター(雇用契約書の補足的な内容)
4.      個人情報の取扱いに関する同意書(Privacy Notice
5.      Staff Handbook(披雇用者としての行動規範)
6.      Job Description(披雇用者の職務定義)
5は別として、そもそも会社としてその国の現地社員を採用する段では、全てが初めてのことだと思います。人事・労務関連に詳しい現地の弁護士やコンサルタントは、採用活動前に必ず見つけておきましょう。後から探してオファーを出すのに時間ばかり掛かると、折角見つけた人材に逃げられるリスクが出てきます。当然のことながら、最終面接まで残るような優秀な人は、雇用者側がきちんと書類含めて受け入れる体制を持っているかも、判断材料として見ていると考えるのが自然です。
1から5の書類は現地の習慣的に大体テンプレートがあって、それに自社のルールを適用して修正するのが速いと思います。特に時間が掛かるのが、ボリュームが大きい245ですが、2は候補者との交渉の過程で手を入れるのに時間が掛かるケースもあります。採用を始める時点で、これらのテンプレートは作成に着手するのが妥当です。
私の場合は、これらを最終面接近くになって着手したので、人事や法務に相当迷惑を掛ける羽目になりました。結局、そのオファーを出そうとした第一号の人は、条件面で散々ゴネられ、最終的にオファーを蹴られたのですが、ゴネられている間に、時間の掛かる45を仕上げる時間の余裕が生まれ、次の候補者にはスムーズにオファーを提示できたというケガの功名もありました。しかも、その最初にゴネた人は、後日談で履歴書をかなり盛っていて、採用しないで良かったというオチも付いた次第です。
英国は日本と労務関係の制度・習慣は近いとは思いますが、それでも細部には違いがあります。例えば、
  • ロンドンは不動産が高過ぎて住めないため、シェアードオフィスが日本と比べてかなり普及しています。普段は自宅勤務、連絡手段は電話やスカイプのようなウェブ会議システム、どうしてもFaceToFaceが必要な場合だけロンドンに出てくるという人が大半なので、面接時に「週に何回出勤必要か?」と聞かれた時は日本の感覚との違いに驚きました。
  • 通勤に掛かる費用も給料込みという考え方なので、自腹が基本。逆に通勤費を支給することをメリットとしてアピールしている日系企業もあります
  • 定期昇給という考え方が無く、給料(基本給)が上がるのは、Job Descriptionに項目が追加された時(つまりやることが増えた時・レベルアップした時)だけという考え方

以上のように、細かいところは現地のプロでないと事前に知ることは困難なので、人材エージェントもある程度情報を持っていますが、労務系のプロは非常に重宝します。
めでたく雇用契約書にサインをもらい、入社日も調整できたら、労務回りのところを色々準備する必要が出てきます。現地の規制に合わせた給与計算などの準備は、採用が決まった時点で財務などとの調整が必要ですが、現地の給与計算もほぼ全てのケースで、会社としては経験が無いと思うので、現地の公認会計士に早めに相談しましょう。またIT周りの準備はとにかく前倒しで最優先で進めます。入社時点でメールアドレスや社内システムの利用などをマニュアルも含めて準備する必要が出てきます。営業職はメールアドレス、電話番号、名刺が無いとそもそも活動できません。経費精算やSFAなども早めに関係部署と調整してアクセスできるようにしておきましょう。
またシニアの人を採用する場合は、当然即戦力として採用していると思うので、入社時に入社後30/60/90日でどのような活動をするか、仮説で良いので準備してもらい、それをベースに入社後のやるべきことをディスカッションするのが良いかと思います。

Rousham House & Gardens