2019年5月25日土曜日

契約書ひな形を作る

海外の顧客や代理店を開拓する場合には、事前に契約書のひな形を(最低でも)英語版を準備しておく必要があります。私の所属する会社はソフトウェアを販売しているため、以下の契約書をひな形として、国際弁護士事務所にチェックしてもらいながら、事前に作成しました。私のケースはかなり簡単なケースだと思います。現地に工場を建てるような場合の契約の複雑さとは比較にならないと思うので、あくまで参考情報で。
  • 秘密保持契約書(NDA
  • エンドユーザ向けライセンス契約、サポート契約
  • 代理店向け契約(代理店のモデルによって複数種類必要。再販、OEM、リフェラル等)
特にエンドユーザ向けは製品ごとに必要なので、ボリューム的に手間がかかります。私も今の仕事になってから、かなり英文契約書を読む羽目になりました。また欧米の企業は契約をかなり細かく見るという先入観を持っていましたが、確かにリーガルレベルでのチェックは細かいものの、ビジネスサイドのレビューでは、取り扱いの通貨と管轄裁判所以外はあまり細かい指摘が入ったケースはありません(勿論その人のバックグラウンドも影響するでしょうが)。取り扱い通貨は為替リスクがあるので、ビジネスサイドが気にするのはある意味当然です。管轄裁判所は、いざ何かが起きた時の最後の砦として、自社が対応できる国であることが前提になるため、必ず気にされます。その辺りは製品やビジネスモデルの観点から総合的に判断して合意して行くことになります。

営業系の現地社員が既にいる場合は、その人にも現地特有の事情を考慮してもらう観点からひな形をレビューしてもらった方が良いと思います。一つ発見だったのが、代理店向け契約のひな形を現地従業員にレビューしてもらった時に、「メーカー側が物価指数対前年比かX%どちらか高い方で値上げする権利を保持する」という文言を入れることをリクエストされて、しかもそれが珍しくないことは驚きでした。英国では不動産も含めて、複数年契約でない限り、基本的に政府が発表する物価指数を根拠に値上げを言ってくることがごく普通で、上記の文言もそれを反映したものです。物価がほとんど上がらないかむしろ下がる時代の日本で生きてきた自分にとっては、一つのカルチャーショックでありました。

人事系の契約書は基本的に最初の従業員の入社日1か月前ぐらいに突貫工事で作成しました。
  • 雇用契約書
  • 個人情報取り扱いに関する合意書(欧州ではGDPRに準拠した従業員の個人情報取り扱いの会社としての義務の明記が必要です)
  • 業務委託契約書(業務委託を使う場合。先方が用意しているケースも多いです)


当然のことですが、契約の根拠になっている法規制は変化して行くものなので、定期的に弁護士によるレビュー・ブラッシュアップが必要になります。そのためにも、現地のビジネスや労働法規に精通した専門家で相談できる人は早め早めに探しておくことをお勧めします。

Canterbury

2019年5月11日土曜日

日本のIT企業の苦境を考える


久しぶりのブログ更新となります。年明けから仕事がかなり忙しくなり、来客対応やら諸々で、まだ落ち着いていないので、遅い更新になりますが、少しずつ学んだこと思ったことを書いて行きたいと思います。

数か月前になりますが、私のいるIT業界の界隈では、NEC・富士通の2大企業のリストラが騒がれました。私はバブル崩壊後のいわゆるロスジェネ世代で、大学卒業時に既に就職氷河期に突入していたのですが、当時はITバブルもあり、IT業界が私のような新卒の雇用の受け皿になっていた部分は大きかったと思います。そんな中で、ITバブルも崩壊し、IT業界のビジネスモデルもハード、ソフト、サービスへと日進月歩で動いて行く中で、IT企業の星でもあったNEC・富士通が苦境に立たされているのは、非常に残念な思いで見ています。

私がその中でも最も象徴的だと思った記事がこちら
IT大手、リストラ続く 富士通やNEC、「GAFA」に後手」
この中でNEC新野隆社長がおっしゃっていた「恥ずかしいが10年前には想像できなかった。気づいたときには追いつけなくなっていた」という言葉が、全てを物語っていると感じました。私が最近感じているのが、GAFAとの投資に対する考え方の差です。

欧米の大手企業の投資の考え方は、『ファイナンス思考』(朝倉祐介著)にも詳しいですが、10年単位で、デファクトを握ることで大きな市場が見込める分野に「一気呵成」に投資します。また撤退も早く、人単位ではなく、部署単位でスクラップするので、撤退が早くできることも、迅速な投資ができる考え方の差につながっていると感じます。先日来英した私の友人が言っていたのが、「日本企業は事業の戦略的な優先順位を決めても、古い事業を畳まず残してしまうので、結局どっちつかずになるケースが多い」と言っていました。撤退の難しさは昨年少し書きました(https://metalossan.blogspot.com/2018/12/blog-post.html)。

価値観や、上述の雇用も含め、経営者が大胆な投資に踏み切れない、その結果5-10年レベルでの差が表れている象徴が、大手IT企業の苦境であると思っています。グローバル化のために企業買収の投資に徹するというのも一つの考え方で、それが上手く行っている企業もあります(日本電産、リクルート等)。ただそのようなケースは稀で、やはり経営者だけでなく、従業員、果ては学生の頃から投資に関する考え方・哲学は学ぶ場が必要なのではないかと思う次第です。その点GAFAは、GoogleのYouTube買収を見ても、ただ買収だけでなくPMIも素晴らしく上手いと感じます(目立たない失敗投資も多数ありますが、損切りも早い)。

かく言う私も、人材・マーケティングでの投資もよく失敗して反省する日々です。日本のIT大手はしばらく苦境が続くかと思いますが、優秀な頭脳が集まっている企業でもあるので、いつか必ず復活してくれることを祈っています。



West Dean Gardens