2018年7月28日土曜日

初期の事業計画・GoToMarketプランを作る


前回までで説明したFeasibility Studyも現地に拠点が無い場合は、何度もヒアリングのために足を運ぶことになります。長期出張などをしながら半年以上、場合によっては数年かけて調査を進めることもあるので、体調管理はご注意を。私も1年間、何度も欧州各国に長期出張するのは、身体的に結構こたえました。
さて、一通り調査が終わった段階で、最初の事業計画をまとめる作業に着手します。ただし、ナンシー・ハバードの書籍でも触れられていますが、最終的に進出は諦めて、国内事業に専念するという選択肢もあることは念頭に置いて、それでも10億円投資する価値があるかどうかをシビアに評価しましょう。私の場合は、英国でのグリーンフィールド投資という結論になりましたが、事業計画には以下のような内容を盛り込みました。結局はこちらのブログでも触れた一連の問いに対しての答えを書いて行くイメージです。

1.      Product/Market Fit: 自社製品・サービスに関連のある市場(具体的な顧客)で、既存の製品・サービスでは満たしきれていないPain Pointについて、なるべく具体的に記載します。そのPain Pointについて、自社製品だけで解決可能か、機能が足りない場合は新しい機能を開発、あるいは他社の技術を取込むことで解決可能かを記載します
2.      その想定されるPain Pointに対するソリューションの市場規模と、そこからもたらされる想定売上
3.      自社の現在の技術のみでソリューションが提供できるなら問題ないですが、新規開発が必要な場合、新規開発に掛かるコストや期間を、製品開発部門等と相談の上、見積もります。他社技術が必要な場合は、その技術を保有している候補企業と、実際に取込むために必要な提携の形態(緩やかなアライアンス、OEM供給、M&A等)を記載します。
4.      自社にしかない技術で、解決できるPain Pointも明確なら良いですが、往々にして現地には先行して進出している競合や地場の競合が存在します。主だった競合とその強み弱み、(手に入るなら)売上・組織体制などの情報も収集しましょう。グローバルで展開している信用調査会社(D&B, Experian等)からCredit Reportを手に入れるだけでも多くの情報が得られます。その上で、グリーンフィールド投資なのか、競合のM&Aか、その他の戦略的提携をするのか、はたまた投資を一旦見合わせて引き続き調査継続するなり国内事業に専念するなりの戦略的選択肢を記載します。
5.      (特にグリーンフィールド投資の場合)現地に拠点を置くことの妥当性を検討。そのソリューションが受け入れられる市場(企業)は(物理的に)どこに存在するか。その市場を開拓するのに、最も妥当な場所はどこか。日本のように東京一極集中ならストーリーは作りやすいですが、市場が分散している場合は、交通の便、税制優遇措置(各国大使館・ジェトロ経由で情報を仕入れられます)などを総合的に判断します。
6.      その拠点の最も妥当な法人形態は何か(子会社、駐在員事務所等)

次にGoToMarketプランも書いて行きます。私はSTPとマーケティング5Pぐらいは網羅しました
7.      STP(Segmenting, Targeting, Positioning)  1にも通じますが、要はターゲットとなる顧客層をどのように捉えているか、どのようなメッセージ(Value Proposition)で訴求するかです。
8.      Product 3と同じ。どのソリューションで戦うかです。
9.      Price:国内とは物価水準やそのソリューションに対する価格感も異なると思いますので、現地で受け入れられる価格を考えます。競合に対して低価格で攻める戦略もありですが、収益性優先のために逆に高価格戦略を取ることもあり得ます。
10.      Place:市場にリーチする販路は何か(直販、代理店等)?
11.   Promotion9の販路で進める場合に想定されるマーケティング方法をマーケティング部門等と詰めます。例えば、想定売上げを達成するために必要なリード数から、必要なマーケティング施策やコストを逆算して行きます
12.   People:その市場にリーチするために必要な人材像、組織体制について記載

グリーンフィールド投資の場合、初期の立上げ費用の大半は人件費とマーケティング費用になるので、1011ができた時点で、必要なP/Lが大体見えて来ます。
13.   売上・費用などの係数計画: 売上は市場規模と、価格、営業体制を考慮して算出します。費用は上記まで詳細に記載すれば大まかに見えてくるかと思います。それを3-5年単位でまとめましょう。「3年で単年黒字(営業黒字)、5年で累損解消」というのはよく言われる言葉ですが、売上を稼ぐにはそれだけ営業がいないと回らない(固定費を掛けなければならない)ので、細かい言葉には惑わされず現実に即した数字でまとめましょう

ここが進出前の最も重要、且つここまでのF/Sの集大成になります。


Kew Garden

2018年7月22日日曜日

Feasibility Study(3)ヒアリング調査実施


F/Sの最重要項目は(潜在)顧客、(潜在)パートナーへのヒアリング調査になります。「潜在」と書いているのは、まだ進出計画先に顧客基盤が無いことが大半だと思うからですが、既に顧客がいる場合はその顧客をヒアリング対象に含めても問題ありません。ただ以前も書きましたが、F/Sで明らかにすべき最も重要な点は「自社のソフトウェアが受け入れられる市場(業界、顧客、具体的なPain Point)があるか?自社製品の機能が足りない場合、新しい機能を開発、あるいは他社の技術を取込むことで解決可能か?」というところであり、ヒアリングもその点を明らかにすることに集中させます。Jason Calacanisの言葉を借りると「Product/Market Fit」を見つけるというところでしょうか。
個別の顧客へのヒアリングは、自社の環境や自分の思いに対してバイアスがかかってしまう可能性があるので、パートナーや有識者(大学教授など)に聞くことを組み合わせることも有効です。ただしパートナーは顧客と比べてアポが取りやすい(パートナーシップの可能性があればパートナー側も無下にはできないので)ですが、市場規模など含めて割と楽観的なことを言うことがあるので注意が必要です。私の場合、ヒアリングの対象としてパートナーが多くなってしまい、顧客の声が少ない分、後で苦労することになりました。顧客の声をダイレクトに聞ける機会はお金を払ってでも設けるべきだと思います。
では、アポが取りにくい顧客へのアプローチはどのようにすべきかというと、私の場合は、その対象地域での調査会社やビジネス開発専門の会社を探して、ヒアリングのプロジェクトを組みました。そのような調査をしてくれる会社を探す場合には、検索等で調べると安かろう悪かろうの業者に当たる可能性が高いので、大使館や業界団体、人づてで紹介してもらうことが一番です。先方も他人からの紹介だと信用もあるので、変なことはできません。そのような会社は地場でのネットワークを活かしてアポを取ってくれるので、まずはプロジェクトのバックグラウンド、スコープ、期間、成果物、予算などを含めた簡単なRFP Request For Proposal)を英語か現地語で作り、それをツールとして対象機関や企業にコンタクトを開始しましょう。私の場合は、色々なところにそのRFPを使ってコンタクトしましたが、やはり大使館や政府機関から紹介された調査会社が良く動いてくれた印象です。
繰り返しになりますが、10億円(それ以上)投資するための調査ですので、手間とお金は惜しまずしっかりと予算を取って進めましょう。

Lake District

2018年7月14日土曜日

Feasibility Study(2)大使館、業界団体等を訪ねる


ワールドカップは日本もイングランドも残念な結果になりました。
前回のブログの最後に大使館やジェトロにコンタクトすることについて書きました。またマクロ情報を仕入れるソースとしては、会社として取引している銀行が、進出検討先の拠点を持っていれば、そのような拠点が現地の統計や法律、輸出入に関する情報を持っているので、そのような情報が入ったレポートを持っていないか聞いてみても良いかと思います。
これらのソースから手に入れる情報はかなりマクロな情報が多いですが、PEST分析の初期の情報としては十分です。またできる限り手間を惜しまず、直接会いに行くことをお勧めします。なぜなら、そこから更に現地でのビジネスを進めて行く上で役に立つ別の組織や人を紹介してもらえる可能性が高いからです。
例えば欧州の場合は、イギリスもドイツもフランスも、進出を検討している地域への投資を促進する政府系(or 準政府系)機関が存在しており、それらの機関の方が、現地のより詳細なビジネス情報や、現地の進出に当たって必要な人や組織の情報(弁護士、会計士、調査会社、人材エージェント等も含めて)持っています。私自身も大使館、ジェトロ、銀行等の紹介には随分助けられましたし、今も活きています。対象となる地域への投資を検討していれば彼らも快く情報を提供してくれる可能性が高いので、是非積極的に会いに行ってみましょう。
ただ、前回も書きましたが、彼らの持っている情報は「広く浅く」なので、闇雲にコンタクトすると、収集が付かなくなります。自身の仮説は忘れず、その仮説の可否の判断に関わる情報を効率良く集めるようにしましょう。
情報を集めて行って深掘りを進めて行くと、一定段階で必ず「ここから先は現地に直接足を運ぶか、調査会社に頼まないと情報収集できない」という段階に到達します。そこから先は更なる調査に必要な予算や現地(長期)出張等を考慮して深掘りを進める次の段階に入ります。

Knebworth House


続く

Feasibility Study(1)

この項目は今後何回かに分けて書くことになります。なぜなら会社にとって最低でも数億円単位の投資になる重要な話だからです。Feasibility Study(実行可能性調査、フィジビリティスタディ、F/S)とは様々なプロジェクトの実現可能性を事前に調査することで、海外事業の立上げでも、その投資判断として海外進出前に必要になってきます。
私はF/Sに約2年弱費やしました。私の人件費、出張経費等含めてもこれ自体、1千万円を超える投資になりますが、失敗すると数億円の負債になることを考えると決して疎かにしてはいけません。英国で幅広い会社を見ている公認会計士が「Feasibility Studyを疎かにしたまま進出して痛い目に合う企業が多い」というお話をされていました。事業内容として、「現地の市場調査」を目的として設立される現地法人もあります。これは様々な意味を含んでいますが、「法人を設立してF/Sを長期継続する」ということも当然含まれてきます。それぐらいF/Sは重要であり、時間の掛かることなのです。
当然のことながらF/Sの結果、「国内市場に専念する」という結論もあり得る選択肢です。「そんなこと言っても今年度末までに海外進出すると株主に説明してしまったんだ。何とかしろ」という経営陣がいたら、きちんとリスク含めてディスカッションしましょう。前回のブログでも書いたように、グリーンフィールド投資だけが海外投資ではありません。
さて、具体的にはF/Sに関して、定型のテンプレートは無く、様々なリサーチの集合体です。私の場合は、B2Bソフトウェアを事業として扱っていたので、F/Sの目的は突き詰めると、以下のような問いを明らかにすることでした。
1.      自社のソフトウェアが受け入れられる市場(業界、顧客、具体的なPain Point)があるか?自社製品の機能が足りない場合、新しい機能を開発、あるいは他社の技術を取込むことで解決可能か?
2.      受け入れられる市場はターゲットとしている市場の特定地域か?例えば欧州だと国によって言語が異なるため、その言語に対応できているかどうかで地域が限定されます。
3.      その市場は投資するに見合う規模か?採算が取れるか?
4.      その市場にリーチする販路は何か(直販、代理店等)?その市場にリーチするために必要な人材像、組織体制は?
5.      競合は何か、自社は競合に対して優位性を持っているか。その優位性は上記Pain Pointに響くものか?
上記の問いに答えて行くために、最初はPESTPolitics, Economy, Society, Technology)分析のようなマクロ分析から始めて、3C分析(Customer, Company, Competitor)など詳細にブレークダウンして行くことになります。漫然と分析を開始してしまうと、幅広過ぎて、収集が付かなくなってしまうので、「顧客のPain Point」を第一のプライオリティに置いて、仮説を立て、その仮説に基づいてPEST分析、3C分析などを進めて行く必要があります。PEST分析に必要なマクロ情報はとっかかりとして、ジェトロのサイト(https://www.jetro.go.jp/)には各国のレポートやマクロ統計情報が載っているので役に立ちます。またターゲットとしている国の駐日大使館、やジェトロの現地事務所にコンタクトして直接情報を仕入れることも有効です。

Kiftsgate Court Gardens

続く

本の紹介(1)-ナンシー・ハバード『16ヵ国50社のグローバル市場参入戦略』



前回の記事で「自分の知見を共有する」と言っておきながら、いきなり本の紹介から入るのですが、この本はそもそもグローバル化の戦略を具体的に考える前に必ず読んで頂きたい必読書になります。

なぜならグローバル化の戦略はグリーンフィールド投資(現地法人を新しく設立して、設備や従業員の確保、チャネルの構築や顧客の確保を一から行う投資の方式のこと)だけではなく、買収など様々な方法があり、B2Bのビジネスではグリーンフィールド投資の成功確率が低いという身も蓋もない現実が豊富な事例と伴に記載されているからです。

日本を出てビジネスをグローバル化する理由は何でしょうか?
・新たな収益源を創りたい!
・ブランドを世界に浸透させたい!
・海外の優れた技術を取り込んで新しい製品を開発したい!
他にも色々あると思いますし、この中の全てというケースも当然あると思います。

ただ強調しておきたいのは、グローバル化は会社にとって大きな投資であり、退出リスクも高いものです。また立ち上げ当初は当然限られたリソースで事業を回す必要がありますので、目的をきちんと定めることと、目的が複数ある場合はその優先順位を決めておく必要があります。そしてその目的を果たす方法がグリーンフィールド投資なのかどうかは、当然客観的な検討が必要になります。

それがまた別の機会にお話しするFeasibility Studyの基盤になり、その後の事業計画にも影響してきます。例えば、製品開発に繋げるための技術発掘を目的とするなら、子会社ではなく、駐在員事務所で十分ですし、インターネットでその技術を持っている会社を見つけて個別にライセンス契約を結べば、駐在員事務所ですら要らないかもしれません。

よくありがちなのが、「グローバル化したい」という思いだけが先行し、そこに後付けで、もっともらしい目的を付けるケースです。「自社の製品は素晴らしいので海外でも売りたい・売れるに違いない」と思った時は要注意。私も日本の製品・サービスの素晴らしさは十分理解していますが、嘗て日本の携帯電話の海外での苦戦の歴史を見ても、世界に出て行く際には余程突出した技術が無い限り、ローカライズは必須になります。上記の本はそのようなプロダクトアウトの目線を相対化する上でとても役に立ちます。

また以下もローカライズでの成功事例に焦点を当てた良書なので、ご参考までに掲載しておきます。
ビジャイ・ゴビンダラジャン+クリス・トリンブルー著『リバース・イノベーション』


English Countryside

それではまた。

ブログ始めました

はじめまして。MetalOssanと申します。このブログは私の海外事業立ち上げの中での体験を、成功も失敗も含めて、読者の皆様に共有しようと思って始めたものです。前から色々な方からブログを書くことを勧められていたのですが、目的は「自分の経験を話すことで、日本の(特にB2Bの)中小企業がグローバルに出て行く際のヒントを提供する」ことです。

以前、英国人の友人から、「少子高齢化が進む中で日本の一番の課題はグローバル化だ」という話が出て、深く頷くことがありました。かといって言語・ノウハウ面での情報不足からグローバル化に二の足を踏むケースは多いと思っています。大企業には私より優秀なグローバル人材がたくさんいますが、グローバルのマーケットを専門とする人材を社内に抱える or 積極的に採用できる中小企業はまだまだ少数だと思っています。ブログで私の経験を伝えることを通じて、(陥りがちな落とし穴も含めて)自社のグローバル化を考える上での一助となれば幸いです。私の経験をベースに書くので対象となる読者層は以下を想定しております。
・日本のまだ海外進出していないが、海外進出をこれから検討したい企業
・産業材、産業向けサービスを提供するいわゆるB2B企業
・これから海外進出プランを練らなければいけない現場担当者
なので、海外事業部などがあり、進出ノウハウがある人が見ても得るものは少ないと思います。

少しだけ私のバックグラウンドを少しお話しすると、
20-30代は外資のソフトウェアベンダーでエンジニア、マーケティング、ビジネス開発等経験
・現在は、日本の中小B2Bソフトウェア企業の欧州事業立ち上げのため、2017年春から英国ロンドンに駐在
・英国への留学経験あり(MBA
40代の脇腹の成長に焦りを隠せない普通のオッサン。妻一人、息子一人。週末はイングリッシュガーデン巡り、レストラン巡りなどで過ごしています。音楽はメタルからクラッシックまで幅広く聞きますが、家族がいるので気軽に一人でライブなどに行けないところが最近つらいところ(涙)。
というところでしょうか。

このブログではなるべく汎用的にどのような会社でも使える知見を中心に書く予定ですが、会社の秘密事項は当然離せないですし、秘密でないことでも抽象化することも多いと思います。また隙間の時間で書くので、のんびり更新して行くことになると思います。またブログの中の意見は私個人のもので、会社の見解とは無関係のものということをお断りしておきます。文章も馴れてないのでヘタクソです。

こんな私ですが、よろしくお願いいたします。



London Piccadilly Circus